チーム・バチスタの栄光
海堂尊著 宝島社
第四回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。選考開始後ものの数分で決定したという。選評に書かれているとおり、現役医師だからこそ描きうるリアルなストーリー展開とユニークな登場人物達が魅力の作品だ。
「チーム・バチスタ」とは、心臓移植の代替治療であるバチスタ手術の専門外科チームの通称。バチスタ手術は、拡張型心筋症に対する手術術式のひとつで、伸びて拡張した心臓の一部を切り取ってしまい、小さく作りなおしてポンプ機能を回復しようとするものだ。東城大学医学部付属病院のチーム・バチスタは手術の成功率100%を誇っていたのだが、ここ三例立て続けに術中死が発生した。医療過誤か殺人か、原因不明の術中死の謎をつきとめるべく、不定愁訴外来担当の万年講師・田口公平に内部調査の依頼が舞い込んだ―というのが導入である。
医師が積極的に犯罪に手を染めていた場合、どう立証するか。「立件は難しいでしょう。証拠隠滅が容易で、独立した医療監査システムも存在していませんからね。そうした問題は、現在ではたいてい内部告発の形で表に出ます。もしスタッフが告発しなければ、おそらく犯罪は隠蔽されます。」と本書の登場人物は言う。たしかに、日本の医療過誤に対する安全管理体制は、1999年の横浜市立大学患者取り違え事故をきっかけに、ようやく取り沙汰されるようになったところである。医療過誤に対する調査機関もここ数年で改善されつつあるものの、病院内部の犯罪まで網羅できるような緻密なものにはまだ程遠いようだ。著者はその穴をついて、小説中殺人事件を起こしてみせ、読みごたえあるミステリーに仕立てあげた。この構想を成しうるのは、よほど優れた才能だろう。
登場人物では、もう一人の調査役である、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔がひときわ個性を放つ。名前は麗麗しいけれど、「つややかに黒光りするゴキブリ」を連想させる容姿の持ち主。「根幹とか本質ってウソ臭くて、あまり好きじゃないんですよね。枝葉やディテールの方が断然リアルで魅力的だと思いませんか?」との言葉どおり、彼が現場を引っ掻きまわして真相を探ろうとする第二部はテンポがよく、読みすすむところだ。彼が要所要所で顔全体「土砂崩れウインク」を決めてくれる演出も好もしい。
『綴葉』ということで。探偵役の二人、田口と白鳥が双方本好きらしく描かれている。白鳥は休暇中に積ん読だった本が全部読めた、と言っているし、主人公の田口はお気に入りの場所で古本を読んで過ごすのを至福としている。何ということもないのだが、きっと著者も本を読むのだろうな、と思った箇所である。(茫)。
(375頁 税込1680円 2月刊)