2004年9月号 この号の目次
特集 幕末維新の英雄
1.新撰組事始 2.坂本龍馬の本 3.未だ南州は死なず

 今回は幕末維新の英雄ということで、新選組、龍馬、西郷どんの三本立て。それぞれ思い入れが強い人が書いていますので、いずれ劣らぬ「濃さ」ですが、この機会に一緒にはまってみるのも如何でしょうか。――などと他人事のようにいいつつ、おいらも実は日テレの年末時代劇はよく観た口です(笑)。特に、田村正和演じる勝海舟の渋さたるや…! というファンタジーと、人間的真実と、史論との架橋が重要なんでしょうけど。(森田)


新選組事始
 大河ドラマの影響力はすごいもので、町の土産物屋には新選組グッズがたくさん並んでいるし、この夏の国内旅行では京都の人気が急上昇なのだそうだ。書店もこのブームに乗り遅れまいと、新選組関連の書籍コーナーを設けて本をずらりと置いている。しかし、こんなにたくさん本があると何から読んでいいものか、と迷われた方も少なからずいるのでは? ここでは、そんな新選組ビギナーのための読書案内をしてみよう。
 まずお奨めしたいのは、京都新聞出版センター編『維新前夜の京をゆく 新選組見聞録』(京都新聞出版センター)のような観光ガイドブックを一冊手元に置いておくこと。新選組活躍の舞台はこの京の地。本を読めば知っている地名が次々に出てくるのだから、家にこもっていては勿体ない。紅葉狩りまではまだ時間があるし、隊士の剣が唸りをあげた現場を訪れつつ、京の町を巡ってみるのはいかがでしょう。
 時代小説の代表作
 最初の一冊として手に取るには、やはり時代小説が最適。読み易いのは勿論のこと、筆者の想像力によって隊士たちの魅力が余すところなく描かれているからである。代表作は、池波正太郎著『近藤勇白書 上・下』(講談社文庫)と司馬遼太郎著『燃えよ剣 上・下』(新潮文庫)。それぞれ局長近藤勇と副長土方歳三を主人公とした名作である。
 二流の剣術道場から京を震撼させる存在へと成り上がっていく様、池田屋騒動を始めとした京都での斬り合い、幕府瓦解とともに敗戦を重ね滅んでいく新選組。僅か数年間の出来事とは思えぬくらい数多くの痺れる場面に出会えるはずである。
 ビギナーのための読書案内なので、詳しくは語らないが、近藤と土方は各々対照的な最期を迎える。あなたならどちらの生き方を選ぶだろうか。是非とも聞いてみたい。
 当事者の声
 小説の語りも魅力的だが、当事者が語り残したものがあるならば、それに耳を傾けてみたいと思うのが人情というもの。
 そこで、是非とも紹介したいのが、子母沢寛の新選組三部作と称される『新選組始末記』『新選組異聞』『新選組物語』(いずれも中公文庫)。筆者が生き残りの隊士や家族、新選組と関りのあった人物への聞き取り調査を基に書き下ろした作品。元々は昭和初期に出版されたもので、尊王史観に基づいた従来の「新選組=賊軍」という暗いイメージを拭い去り、ひたむきに剣術で生きる若者たちの姿を描き出した画期的な著作である。今日人々が思い浮かべる新選組像は全てこの著作から生まれたといっても過言ではない。
 当事者というものを元隊士に限定するならば、木村幸比古著『新選組日記 永倉新八日記・島田魁日記を読む』(PHP新書)もよい。記憶違いによって、史実と異なる記述があったり、敢えて語ろうとしなかったこともあるので、史料としては欠点もある。が、その欠点をも含めて、隊士が自らの過去を如何に語ったかを知るのは、他では得られぬ刺激であるし、新書ながらも、原文に現代語訳と解説付きという贅沢な一冊である。
 歴史のなかの新選組
 これらの本を読めば、新選組の活動や、主な隊士の人となりは掴めてくるが、あと一つ物足りない。あの幕末という時代に新選組は一体どんな役割を果たしたのか。
 そんな問いかけに正面から答えてくれるのが宮地正人著『歴史の中の新選組』(岩波書店)。歴史家である筆者は、自分は小説家ではないから「フィクションを創作することは一切できない」と宣言し、厳密な史料批判を通じて史実を明らかにしていく。果たしてそこで示される新選組の姿とは…。新選組に常につきまとう空想・夢想を排し、隊士が歴史に残した足跡を丹念に辿ることによって、あの剣客集団の生き様がより現実味を帯びて浮かび上がってくることだろう。
 新選組ファンには、歴史小説に描かれる虚像に酔いしれているだけの人も多い。その虚像の中に理想的な人の生き方を見出せるならば、それはそれで有意義なことかもしれないが、やはりそこには虚しさがつきまとう。『綴葉』読者には是非とも、その一線を越えていただきたい、などと小言を述べて読書案内を終えたい。(歳)
1.新撰組事始 2.坂本龍馬の本 3.未だ南州は死なず

この号の目次 京都大学生協書評誌/綴葉 2004年9月号